――懐かしい匂いだ。アイドルとして駆け出しの頃は、よくここでコンサートをしたっけ。こういう小規模な会場ばかりを回って、ガムシャラに歌って踊ってたんだよね。

 昔の記憶が蘇って、律は少し切なくなる。
 自分の方が早く着いたと思っていた律だったが、新條は既にステージに座って待っていた。

「あれ、早いね」

 明るく声を掛ける。
 新條はステージから飛び降りスタっと着地すると、律のもとへカツ、カツ、カツと靴音を響かせて近寄ってきた。いつもと少し雰囲気が違う。

「俺、解ってます。先輩が南野ひかりだって」

 その名前を聞いた瞬間、律の全身に鳥肌が立った。

「は、何言ってんの。違うよ」

 声が震えている気がする。しっかりしろ、と自分に言い聞かせる。

「誰にも言いふらしたりしませんから、安心してください」
「違うって言ってるでしょっ」

 新條は律の髪をじっと見つめた後、俯いた。

「あんなに長い髪だったのに、バッサリ切りましたね……」

 そして片手で顔を覆い、ひたすらに黙り込む。その様子はまるで、自責の念に駆られているかのようだった。

 ――もう完全にバレてる、誤魔化せない……。

 律は諦めた。

「いつから」
「気付いたのは、転校してきてすぐです」
「じゃ、何で今頃になって言ってくるのよ」