――……カツアゲじゃないよね? まさかね?

 律は心配になって、足音を立てないようにコソコソ近付いた。

「変更を阻止するために署名たのむ、ダイヤモンドガールは最高の曲なんだ!」
「熱いっスねー。先輩の熱意に負けましたよ。ははは」

 一年生らしき男の子は笑いながら、新條が持つバインダーにはさげてある紙にペンを走らせている。

「何人分の署名集めるんスか?」
「そりゃ、全校生徒分よ!」

 新條がしていたのは、カツアゲではなく署名運動だったようだ。
 別の生徒が歩いてきて、また新條は声をかける。

「ちょっといいかー? 体育祭のダンス曲にダイヤモンドガールを使うことに賛成する署名、してくれねぇか?」

 ――私とダイヤモンドガールのために、ここまでしてくれるなんて。

 新條の行動に、律は胸を打たれた。

 その日の夜。帰宅した律は、両親と夕食をたべている。
 テレビに新條が映ると、父はチャンネルを変えた。律と同様かそれ以上に新條のことを嫌っているのだ。

「……ねえ、お父さん、お母さん。学校に、こんな人がいるんだけどね」

 律は、名前を出さずに新條のことを話し始めた。

 その人はね、私が振り付けを頑張っていたから体育祭ダンス曲の変更に納得できないって言うの。それにね、その曲を使うことに賛成する署名運動を一人でしてたんだ。