「興味ないっすね」
「え」
「俺は先輩にしか興味ないんで」

 律の唇を新條の親指がなぞる。律が首をすくませたのは嫌だったからではなく、こんな感覚初めてでゾクッとしたからだ。

「帰国したら、さっきの続きしましょうね。覚悟しといてくださいよ?」
「さっきのって……」

 唇が重なりそうになったのを思い出して恥ずかしくなっていると、新條がニヤッと笑った。きっと律の心なんてお見通しだ。

 覚悟していても心臓がもたないかもしれない、キュンキュンしすぎて死んでしまうのではないだろうか。

 ――私、とんでもない奴を好きになっちゃったなぁ。

 そう思うけれど、律はもう後戻りできそうにない。こんなに自分をときめかせることができるのは、新條だけだと解っているから。拳を握りしめた律はこう答えた。

「望むところよ!」

 
 滑走路から飛行機が飛び立つ。
 律は展望デッキからその光景を眺めた。
 風になびく短い髪が、頬に当たってくすぐったい。
 空を見上げると、五月の太陽が優しく照らしてくれていた。



おわり