――もっと一緒にいたかった。

 ――好きだと伝えられたらどんなに幸せだっただろう。

 しゃくり上げるようにして泣いていると、どこかで足音がしたような気がした。
 その音はどんどん大きくなって、律に近づいてくる。

 急に、抱きしめられた。
 目を開けると――エスカレーターを駆けあがってきた新條がいた。

「何で泣いてんですか」

 新條がどうして戻ってきたのかなんて、この際どうでもよかった。律は、自分の想いを伝えたいという強い衝動に駆られた。

「好きだよ、新條」

 新條の背中に、律はドキドキしながら腕を回す。

 ――好き。好き。大好き……。

「マジで……?」

 新條は律の目を見つめてはにかんだ。
 抱きしめられたまま、新條のおでこが律のおでこにくっつく。

 ――あ、キスされる……!

 律はそっと目を閉じた。

「あ」

 新條の声で目を開けると、新條の動きがピタリと止まっている。

「公衆の面前じゃん。何やってんだろ、俺」

 周囲を見渡すと、当然の如く通行人がいる。スーツケースをゴロゴロと引きながら慌ただしく移動している人ばかりで律と新條の存在は気にも留めてないようだが、確かに公衆の面前である。

 じわじわとキスされそうになった実感がわいてきて、律はドギマギした。