律は膝を抱え、途方に暮れる。それを克服するためには、いったいどれくらいの努力が必要だろうか。現役のときに頑張っていてもできてなかった事だ。きっと何年もかかるだろう。アイドルにだって寿命があるし、ファンはいつまでも待ってはくれない。

 そんなに時間を費やすくらいなら、自分の得意を伸ばしていきたい。
 律は独り言ちた。

「ダンスは好きなのに……」

 律は頭の中がぐちゃぐちゃの状態だったが、どうにかしてダンスを続けられないかと考える。
 そして、ダンス係での出来事を思い出した。

 ――そっか、振付師だ。

 考えた振りを披露した時。
 振り付けを教えた時。
 体育祭で踊った時。
 周りの人の笑顔が忘れられない。もっと、幸せにしたい。
 
 ――ダンスの振り付けをもっともっとしたいな。
 
「いや~かっこよかったですね~!!」

 テレビからかん高い声が聞こえてきて、反射的に画面を見た。
 ステージからアーティスト席に戻ってきたBREAK OUTのメンバーに、司会者は興奮気味に声をかけている。