桜色の歌と君。

五月に入り、日差しが力強さを増してきた日の放課後も、同じようにして屋上へ駆けあがった。

宮野くんの歌う曲は夏の訪れを告げるようなものが増えてきていて、少し寂しいような、夏が待ち遠しくなるような気持ちになった。

最近は五月の中旬に迫った中間試験に向けて放課後に図書室に残って勉強をすることが増えたため、屋上でのんびりする週二日の放課後が私たちにとって、勉強に追われる心の気分転換にもなる大切な時間だった。

「勉強どんな感じ?」

フェンスに身を任せ、温かなそよ風に揺られる宮野くんが振り向いて聞いた。

「ぼちぼち、かな。最近またギター弾くようになちゃって、勉強もっと頑張らなきゃ。」

「花咲さんギター弾くの!」

大きく跳ねるような声に、驚いて肩がびくりと震え上がった。

宮野くんの顔がぐんと近づいてきて、途端に呼吸が浅くなり、息が詰まりそうになる。

その目には零れ落ちそうなほどにキラキラとした輝きが溢れていて、思わず吸い込まれてしまいそうになった。

「少しだけだよ。」期待でいっぱいの瞳で見つめられて焦った私は、慌てて喉元から声をすくい上げた。

「聴いてみたいなあ!」

宮野くんは床に大の字になって、日差しを身体いっぱいに浴びながら空へ向かって声を上げた。そのまま大きく伸びをした彼の横に、そっと腰を下ろす。

「僕ね、後夜祭に出ようと思ってる。」

「後夜祭?」

聞き馴染みのないワードに聞き返す。

「文化祭の最終日に生徒内でやる行事。実行委員が主体で生徒が出し物をするんだ。ダンスとか、お笑いとか。」

「歌とか?」言葉を継いだ私に、宮野くんは少し照れたような表情で頷く。