桜色の歌と君。

「良かったら一緒に帰らない?」

そう聞いた千草ちゃんに、心の奥から何かが溢れてくるかのような気持ちになった。

「帰りたい!」
そう返すと、千草ちゃんは顔いっぱいに笑顔を広げて「やったぁ。」と言った。

「千草ちゃんは、どうして図書委員に?」

帰り道、二人並んで歩道を歩きながら聞いてみた。

「えっとね。」

千草ちゃんは少し躊躇うような表情を見せた。その横顔が少し赤く染まる。

「実は、図書委員の先輩に一目惚れしちゃって。」

恥ずかしそうに、少し申し訳なさそうにして小さく言った千草ちゃんに、きゅんと胸がくすぐられたような気持ちになって、途端にそわそわとしてしまう。

千草ちゃんは恥ずかしくて仕方ないように俯きながら、私の言葉を待っていた。

「もしかして、昴さん?」

そう聞くと、千草ちゃんは私の顔を見上げてくるりとした大きな瞳を見開いた。

「知り合いなの?」

その声には、驚きと、期待と、不安が入り混じっていて、何か誤解を生んだかもしれないと私は慌てて言葉を繋げる。

「いや、友達の友達で。その子が下の名前で呼ぶから苗字は知らないんだけど。」

「そうなんだ。」安堵した様子を見せる千草ちゃんに、ほっと胸をなでおろす。