桜色の歌と君。

三人が弾んだ声で会話を続けながら教室を出て行くと、ふと宮野くんとの会話を思い出した。本の虫だという、宮野くんの親友の話。

図書委員は放課後、何か仕事があるのだろうか。そういえば放課後図書室に行ったときカウンターに生徒がいた気がする。それがその親友かはわからないけれど。

図書委員という存在に純粋な興味を覚えた私は、とりあえず図書室に向かうことにした。

図書室に入り、弧を描くように設置されたカウンターに直行した。カウンターの中には、男子生徒が一人、本を読みながら座っていた。読書に集中している様子の彼は、どこか陰のある表情をしていて大人びて見える。宮野くんの親友というのは、彼のことだろうか。

話しかける勇気も度胸もない私は、一旦その場を離れ、昼間一度手にした図書委員おすすめの一冊を持ってカウンターへ戻った。

「これ、お願いします。」

そう声をかけると、図書委員の彼は顔を上げた。

切れ長の瞳がゆっくりと動き、私の目を捉える。

彼は読んでいた本をぱたりと閉じると、何も言わず私から本を受け取り、慣れた手つきでパソコンを操作した。

「学年、組、氏名を教えてもらえますか。」

少し低い、落ち着きのある声は淡々としていて、緊張が増す。

「一年 A組、花咲小春です。」

そう返すと、彼はそばに置いてあったファイルを手にして、ページをパラパラとめくった。どうやら全校生徒の名前、学年とクラスが載っているようだ。

その横にあるバーコードを読み取ると、今度は本の裏のバーコードを読み取った。

「返却期限は二週間です。」

そう一言だけ言うと彼は私に本を返して、またすぐ読書に戻った。

人のことを言える質ではないが、愛想のない人だ。でも不思議と嫌な印象は受けなかった。

「あ、ありがとうございます。」

私は本を抱きかかえるようにして小走りでカウンターを離れた。