『晶』
その声が雅の声だとすぐにわかる。
『浅く、あまり胸を上下させないように意識しながら、ゆっくり呼吸してて。』
思ったよりも動いたらいけないというプレッシャーや慣れない機械の閉鎖された環境に、恐怖すら感じている私。
雅の声を聞いて落ち着こうと自分に言い聞かせるものの、言われていた通り機械の中が揺れたり、工事のような音がかなりの大音量で聞こえることに、体がびくっと動きそうになる。

雅の方では私の心拍数や、状態が映像で見えるのだろう。
雅がそのたびに大丈夫と声をかけてくれるけれど、正直大丈夫ではなかった。

こんなのが30分も続くのかと絶望すら感じ始めた時、雅が落ち着く声で話始めた。

『正直、俺、はじめはお互いの利害の為だけに結婚した晶とどう接したらいいかわからなかった。』
その言葉に、私は機械音が耳に入らず、雅の声だけに集中する。
『忙しさをはじめは言い訳にして、晶とちゃんと向き合えなかったのは、完全に俺の逃げだった。』
確かに、私たちの結婚は数回会っただけのお見合い結婚で、はじめから私たちの意志とは正反対に利害の為だけに決められた結婚だった。
雅はわからないけれど、私は両親から相手についてやお見合いついての印象も、この先雅とやっていけるかどうかも聞かれなかった。