愛してしまったので離婚してください

病院の診察室。
医師と雅が何やら深刻な表情で話をしている。

想像すらしていなかった光景だ。

雅は私が診察室に呼ばれるのと同時に、診察室に入った。
すぐに「藤川晶の夫です。先日はお忙しい中、連絡させていただきありがとうございました。直接の挨拶が遅れて申し訳ありません。」と医師に頭をさげた。

医師は雅のあいさつに立ち上がり、「ニューヨークでのご活躍は実は知っていました。日本にいる時から学会で新進気鋭の外科医がいると噂になっていた倉前さんが藤川病院の娘さんとご結婚されたことも実は知っていたんです。」と話始めた。

「まさか、私のクランケが藤川病院の娘さんということも、倉前さんの奥様ということも、気づきもしませんでしたが。」
「妻を、よろしくお願いします。」
「いえ、こちらこそ、いろいろとぜひ教えていただきたい。」
雅が私を妻と呼び、私のことで誰かに頭を下げている。

夫婦になって5年もたてば当然の事なのだろうけれど、今の私にはくすぐったいような申し訳ないような、でも、やっぱりうれしいと思ってしまうのは、かなり不謹慎だろうか。