愛してしまったので離婚してください

「私の番号も、病院の専用携帯の番号も入っています。緊急の時は連絡ください。」

事務的に告げられながら、私は彼の携帯電話の番号も知らなかったことを思い出した。

「私もこの携帯電話の番号を登録してあるので、緊急の時は連絡をします。」

この言葉の背景を考えてしまう。
それって、緊急の時以外は連絡を取り合うことすらないということ?
そして、その緊急がない限り、雅と私は話をすることも会うこともないかもしれない?

玄関のボストンバックをちらりとみるとかなり大きく、家にある荷物の方が少ないのではないかと思えた。

「わかりました」
全く距離をつめられないまま、私は返事をして愛想笑いで答えた。

「じゃ」
雅は私の返事を聞くとすぐに、私に背を向けて玄関の方へ向かった。