愛してしまったので離婚してください

「これからもしばらく病院に泊まります。困っていることはありませんか?」
それが雅の帰宅後初めての言葉。

数週間ぶりに会った雅からの言葉に「特にありません」と返したのは、あまりよく考えていない返事だった。だって、まだ数回しかあったことのない、しかも”夫”との久しぶりの再会。雅が何を考えているのかも、これからどんな生活が待っているかもわからない。第一、倉前雅という人間がどういう人かすら全くわからないのに、まともな返事ができるわけない。

雅はほどいていなかった段ボールの荷解きをして、「これを」と明らかに病院にもっていくボストンバックを玄関に置いてから私に何かを手渡してきた。

お茶でも出したらよかっただろうか。それとも食事でも。でも2回目の新居への滞在時間も1時間程度で、もう病院に向かおうとしている姿をみると、迷惑がられるかもしれないと、行動には移せなかった。

「なんですか?」
差し出されたものに手を伸ばすと、雅は私の手に携帯電話を渡した。