愛してしまったので離婚してください

「唯一覚えているのは、晶のお父さんの言葉なんだ。」
「父の？」
「そう。」
私の言葉に雅はちゃんと答えてくれる。
どんな言葉にも、視線を向けて、真摯に答えてくれるその姿勢がうれしい。

同時に、私に向けられる雅の気持ちが伝わって、安心できる。

「君の両親は私には助けることができない。もう生きるためにできることはない。でも、意識がなくてもきっと君の両親は痛がってる。苦しがってる。その痛みや苦しみを和らげることなら私にはできる。」
父の言葉だと教えてくれる雅はどこか寂しそうな、切ない表情をしている。

「君にもできるって」
「・・・？」
「私と一緒に、痛みや苦しみを和らげることが君にもできるから、一緒に戦おうって。最後の戦いをって。」
私は父の医師として患者と向き合う姿を見たことがない。どんな医師なのかを知らない。あくまで想像でしかない。初めて知る雅の過去。同時に私は父の姿も知ることになった。