「よかった、会えて…
…
どーしたら晴さんに会えるかな…って
この間の晴さんが持ってきてくれた
テイクアウトの割り箸の袋に
このお店の名前書いてあって…
アレから何度かここに来たんです」
よかった?
会いたかったの?
「なん、で…?」
メッセージもくれなかったのに
なんでここに来てるの?
バルとか行ったことないって
言ってたくせに…
「直接会って話したかった」
彼の声は真剣だった
ホントに会いたいと思ってくれてたのかな?
「あの日のこと、直接謝りたかった
…
あの日、晴さんがオレと会った理由
言いにくそうだったから
あ、そーゆーことかな…って…
オレ焦って晴さん押し倒してしまって…」
え、私がセフレを探してたって勘違いした?
「次の日起きたら、晴さんいなくて
すごい失礼なことしたな…って
後悔しかなくて…
…
酔ってたけど記憶は全部残ってて
最後、オレ先に寝ちゃって…
…
ホントにスミマセンでした」
うん
全部合ってる
私が宙くんに会った理由以外は
今日も
酔ってる宙くん?
テーブルに置かれたビールは
最初の一口だけ口が付けられて
グラスが結露してた
ほぼ本物の宙くん?
ホントはやっぱり真面目で誠実なのかな
目の前にいる彼を見て
イライラしてたことも
どーでもよくなった
「謝ってもらっても…」
わざとそう言ってみた
「謝っても許してもらえないですよね
でも謝ることしかできなくて…」
本当に悪そうにしている彼が
可哀想にさえ思えた
よく考えたら
この間は最低な男だったけど
私だって合意の上だったし
被害者でもなんでもない
彼は悪くない
文句も言えない
なのにわざわざ
こうして謝りに来てくれてる
「謝ってもらっても…
別に怒ってないからいいよ」
「…え?」
「メッセージがこなかったことには
なんかちょっとショックだったけど…
…
私、良くなかったのかな…って…
…
でもあの日の事は別に後悔してないから
気にしないで…
…
わざわざありがとう
謝りに来てくれて…」
「あの…良くなかったわけじゃなくて…
オレの行為が最低だったな…って
恥ずかしくなって…
なんてメッセージしたらいいか
ずっと考えてて…」
誰にも聞こえてないよね?
周りの目が耳が気になった
「あー…うん…
ここ、会社の人もよく来るから
そろそろ出よっか」
職場の人にはもちろん
マッチングアプリで男性に会ったなんて
言えない
まだ親しい友達にも言ってない
こんなところ
誰かに見られたり聞かれたりしたら大変



