僕等はきっと、満たされない。


「ねえ、晴夏…
先輩に海外で一緒に仕事しないかって
誘われてるんだ」



冷たい空気に混ざって

宙の声が耳に届いた



「すごいね
チャンスじゃん!
宙、行ってみたいって言ってたよね」



「晴夏と一緒にビール飲めなくなる
一緒に買い物も行けないよ」



「うん…そーだね…
でも、仕方ないよ」



「行ったら、しばらく帰って来ないかも
晴夏、寂しくない?」



後ろから私を抱きしめる宙の顔は見えないけど

寂しさが伝わってきた



宙…?

嬉しくないの?



私の耳元に宙の冷たい頬が触れた



「どれくらい?
どれくらい行くの?」



「3年…」



長い


でも…



「待ってるよ、私」



「もしかしたら…5年…
もしかしたら…ずっと…」



5年?


ずっと?



「私は大丈夫だよ
宙、寂しいの?

海外だって会おうと思えば会えるし
宙が帰って来れないなら
私が仕事休んで会いに行ってあげる!

毎日顔見て電話しようよ
そしたらきっと
近くにいるみたいだよ」



強がった


ホントは寂しいよ



「毎日顔は見れても
晴夏のこと
こんなふうに抱きしめられないよ」



せっかくのチャンスなのに

私の存在が邪魔してる



「私は大丈夫!
今までだって毎日なんて会ってないし…
2.3週間会えない時もあったよ」



「オレは
ホントは今だって毎日会いたいよ

ホントはずっと晴夏と一緒にいたいよ

オレは、寂しいよ

オレ、大切な人、置いて行けないって
前に言ったじゃん」



私の存在が負担になってる



私だって寂しいよ



だけど

今度は私が

いつも支えてくれた宙の

支えになりたい



「うん、でも…」



上手く言えない



「大切な人も一緒に連れて行きたい」



「え…?」



「晴夏
オレと一緒に来てほしい

ずっと一緒にいてよ

仕事から帰ったら
晴夏が待っててくれたらいいな…って思う

朝起きたら
晴夏が隣にいたらいいな…って思う

最近、ずっとそう思ってた」



「え…でも…」



「でも…?」



それって…



「でも…

私で、いいの…?」



「高校時代好きだった子が結婚したじゃん

その時
いつかオレも
誰かを幸せにしたりできるのかな?
そーゆー人と出会いたいな…って
思ったんだ

オレには、無理かな?」



真っ直ぐで純粋で

やっぱり彼は

綺麗な恋愛しかできない人



宙は

できるよ



「無理じゃないよ

幸せだよ、私

私、宙と出会ってよかったよ」



「ね…
だから、晴夏がいい

もっと幸せにするから
一緒に来てほしい

晴夏と、一緒に世界が見たい」



「うん…
私もふたりで見たい

宙と一緒に見たい」



あの人が在た京都なのに

あの人が隣にいないことが

いつも不思議だった



何度か宙と京都に来て

隣に宙がいるのが

当たり前になってきてた



宙が魅せてくれる世界

宙と一緒に見る景色



何かの映像を観てるみたいに

宙といると特別に見えた



いつの間にか

ずっと一緒にいれると思ってた



あの人の時もそうだった



でも

ずっと一緒も

当たり前も

この世界にはなかった



「宙、もぉひとりになりたくない」



「ひとりじゃないよ
晴夏

ひとりにしないよ
晴夏」



いつも隣にいてほしい

いつも隣にいさせてね



「ついて行きたい…宙に…」



「うん
幸せにするね…晴夏…」



ーーーーー



ホントは

こんなふうに

いつでもキスできる距離がいいよ