僕等はきっと、満たされない。


「じゃあ、晴夏6時に駅ね
遅れないでよ!」



「うん!緊張しちゃう」



今日は君の様子がいつもと違った



「今日は何のアイス食べるの?」



「あ、雅!
今日は食べない
最近食べてなかった」



「どーしたの?
体調悪い?」



「んーん、ダイエットしてる」



「ダイエットなんかしなくても…」



かわいいよって言うところだった



「ダイエットしなきゃなの!」



「どーして?」



「ねー、雅
キスしたことある?」



「キス?」



君が唐突にした質問に

声が裏返った



ここ

結構人通り多いけど大丈夫?


大学の渡り廊下だった



「もえちゃんがこの前
彼氏とキスしてたの見たの」



「へー…」



「彼氏いいな♡って言ったら
今度、友達紹介してくれるって…」



「へー…
晴、その人とキスするの?」



「会ってみないとわかんないけどね
付き合ったらね」



彼氏

付き合う

キス



オレには

縁のない言葉だった



「そんな簡単に付き合えるんだ」



「私には簡単じゃないよ
みんな彼氏いるのに…

大学生になったら
自然と彼氏できると思ってたんだけどな…

勉強より難しいね」



晴って、そーゆーの興味あったんだ

意外だった



アイスのことしか考えてないと思った

そんなアホいないか…



「晴は、キスしたいから付き合うの?」



「そーゆーわけじゃないよ
言い方を変えたら
好きだからキスしたいんじゃない?」



好きだからキスしたい



オレも晴を好きになりたいと思った



ずっと抑えてた感情

誰かを好きになること



それがオレには許されない



「会うなよ」



「え?」



「会わないで…」



「なんで?
だって、もぉ約束したし…
6時に駅で待ち合わせしてる

そのために服だって買ったし…
昨日、美容院行って来た」



「だって、会ったら…

会ったら、晴のこと絶対好きになるし
そしたら晴…」



もぉ

オレのところに来ないでしょ


もぉ

晴の部屋にも行けない



「好きになってくれるといいけどね
どぉかな…
まだわかんないよ」



もぉ

晴のこと…



「なるよ…
絶対なる!
晴のこと、絶対好きになる」



そしたらオレは

もぉ

晴のこと…



かわいいとか

思ったらダメでしょ



「会わないで…晴…

晴のこと、絶対、好きになるから…
だから、会うなよ」



こんな方法でしか

晴の近くにいれる方法がない自分が

情けなかった



「なんでそんなこと言うの?
じゃあ、雅キスしてくれるの?」



「え…」



「だって…
初めてのキスは好きな人としたいもん」



「オレ…?」



「…うん…」



オレの前で

頷く君が

かわいかった



「晴、オレのこと、好きなの?」



「…うん…好きだよ…」





ホントに?



オレのこと

好きなの?



今まで

そんなふうに思ったことなかった



オレが

気付かなかっただけ?



「オレも晴のこと…


好きになりたい」



自分の気持ちに気付いた

オレは晴が好きだ



「ん…?」



「オレも、晴のこと好きになってもいい?」



「それって、私とキスしたいから?」



違う



きっと

オレは

もぉ晴を好きだった



ずっと晴が好きだった

ずっと抑えてた感情



「いや、キスとか、
そーゆーとこじゃなくて…」



晴とキスできるなんて

思ってなかった



晴を好きになるなんて

できないと思ってた



「じゃあ…ダメ…
もえちゃんの友達に会う」



「じゃあキスする!
晴とキスする!

晴とキス、したい…

あ…」



ここ

結構人通り多いけど大丈夫?


大学の渡り廊下だった



忘れてた



「じゃあ、いいよ
私のこと、好きになってもいいよ」





なんでそんなにかわいいの



「晴、かいらしいなぁ」



晴は嬉しそうにはにかんでた



オレで

いいの?



「えっと…
うちは雅が好きどす
うちを雅の彼女にしとぉくれやす」



「え?」



「アレ?通じなかった?」



「いや、通じたけど…」



不自然な京都弁がかわいかった



「ずっと練習してたのに…」



「ずっと?」



「うん、ずっと…」



「晴、ずっと、好きだった?」



「うん…ずっと…」



好きだからキスしたいんじゃない?



かわいすぎて

今すぐにでも

キスしたかった



ここ

結構人通り多いけど大丈夫?


大学の渡り廊下だった



できなかった



「晴…
好きやで…
オレの彼女になっとぉくれやす」



「ん?なに?」



晴がクスクス笑った



「晴、ワザと言ってるだろ
もぉ言わない
晴、笑うから…」



「じゃあ、私にわかるように言って!」



「晴、好きだよ
オレの彼女になってください」



晴がさっきより嬉しそうにした


気持ちが通じた



「はい
よろしゅう、おたのしみ、もうします」



「晴、言えてないし」



「え?なに?」



「よろしゅうおたのもうします」



「え?なに、なに?
よろしく、おたのしみ…」



「ちゃうちゃう!
晴、かいらしいな」



「もぉ、なに?

もぉ、いい…

雅…
私も好きだよ」



春なのに

笑った君は

夏の空みたいだった