普段リゼの父親である王のヨハンは謁見の間ではなく、こじんまりとした執務室で政治業務を行っている。実際に国を動かしているのは数人の大貴族たちの大臣ではあるが、最終的な決定権は王であるヨハンの仕事である。
 ヨハンが頭を抱えるのは、決まって財政なのであった。
「ああ、金がない」
 ヨハンの口癖である。

 ウルカ王国が位置してあるのは大陸の西側で比較的に肥沃な大地で作物の実りはよく、農業国家としては恵まれたほうではあったが、これといった特産品がないのも国庫が潤わない原因でもあった。それに四方を囲む大貴族たちの牽制もあった。特に北方に領土を構えるギース公爵は王座を虎視眈々と狙っていた。その事実を大臣たちは口を酸っぱくしてヨハンに伝えるが、とうのヨハンはギースは弟だからという理由だけで大臣たちの諫言を無視している。
 大臣たちはそんな王を前に首をすぼめるのだった。
 
 ヨハンとはそういうお人好しなほど人がいい一面をもっていた。しかしそれは一国の王としては頼りないということでもある。