しかし、

暇だ。

空に延びていた真っ白いすじは消えている。
代わりに大きな入道雲がゆっくりと周りを白に染め上げている。

そういえば
いつからこんなに空を見るようになったのだろうか。

私にはすべてモノクロに見えていたはずなのに、いつの間にかこんなにも空が綺麗な事がささやかな幸せでならない。

気が付くと、太陽が南に昇っていた。

そして

「ありがとうございましたー!!」

ほら
またあの声が聞こえる。

私に色を与えてくれたあの声が。





私がその声に出会ったのは入院してすぐの事。

本当に窓際のベットで良かったよなぁ。

カーテンで囲まれたベットなんて、きっとなんにも代わり映えしないんだろう。

孤独感が体中を支配していくばかりじゃないか。

だから私はツイていると思う。

四角い窓から吹き込んでくる風だけが
何故だか心が潤っていくような。
そんな気持ちになる。

風を浴びながら時間をつぶす。

時計の針は正午を指した。

お昼ご飯だと称されて運ばれて来た食べ物は、私の食欲を失せさせるばかりだった。

「響子(キョウコ)ちゃん、食べなさい。」

看護婦さんが腰に手をあて怒りをあらわにしているが、そんなの無視してトレーを突き返す。

看護婦さんは食べなさい、とまたも注意して出て行ったものの、回収に戻って来てみてもまったく手をつけない私を見て、呆れたのかきれいに昼ご飯が残ったトレーを戻して行った。

こういう時、喋れないというのは便利である。
言い訳とやらをしなくていいからだ。