今頃トーマ様はサラ様をエスコートして会場に入っているはずだ。
なのになぜわたくしをエスコートしているの?
だけど、そんなことを言えるはずもなく……というか言う間もなく、会場前にいる騎士が扉を開けてしまった。
「王太子のトーマ様、ウィルド侯爵家のレティシア様がいらっしゃいました」
そのアナウンスに、会場内はワッと盛り上がる。
煌びやかな会場だけれど、私の正面には誰一人として居ない。人が半分に別れて道を作っている。
不安な顔も戸惑っている顔もしてはダメ。
わたくしはまだ侯爵家の娘なのだから、完璧でなくてはいけない。
「さぁレティ……いくよ?」
トーマ様の腕を取り、わたくしは戸惑いを隠して顔に淑女の笑顔を貼り付けた。
きちんと授業を受けていてよかった……。
顔色を隠すのはお手の物だ。
にこやかに周りの視線を受け流しながら、ゆっくりとパーティー会場の中央に行く。
今日の主役はわたくし――。



