本音を言えば、ダミーではなく本物の恋人にしてほしい気持ちはあったけれど…彼の生い立ちや、いまの状況では、とても恋愛する気になれない気持ちも想像に難くない。

私は、ずっと想像のなかで生きてきたような人間だから。

栗原くん以外に友達はいなくても、子供の頃から沢山の本を読んだことで、想像や共感は恐らく人並みにはできると思う。

ただし、好きだという気持ちは絶対に隠さなければ…。

もし、好きだなんて言ったら…結局は他の女の子と同じだと思われて、嫌われそうで怖い。

私を信頼してくれていることが嬉しいし、何しろ私にとって栗原くんは恩人で、とても大切な人なのだ。

これで恩返しになるなら…。

そして、たとえ偽物であっても恋人のように扱ってほしい気持ちもある。

どう転んでも本物の恋人になることが不可能なら、尚更のこと。

「栗原くんの気持ちはよく判った。栗原くんにとって、いつか本当に大切な人ができるまで…私は恋人のふりを続けるね」

栗原くんは、何か言いたそうにしていたが、

「本当にありがとう…この恩は忘れないよ」

そう言って微笑んだ顔が、どことなく切なそうなのは気のせいだろうか。