その夜は仲間から聞いていた話より随分とつまらない仕事をさせられて、ミツルは強いストレスを感じながら、信号待ちの汚いワンボックスカーの窓から、駅に溢れている人ゴミを眺めていた。



なかなか変わらない信号に苛ついて来た頃、駅前の一角に小さな人だかりが出来ているのが目についた。



何があるのかとその中心を目で探ると、
そこには見間違えるはずもない、

遠くても

後ろ姿でもわかる、

ミツルのつまらない日々の原因を作った男、

"海星" がバイクにもたれて佇んでいた。




海星を見つけただけで、体の奥深く自分でも良くわからない場所から、血を湧き立たせるような熱が噴き上がってくる。



さっきまでのつまらないストレスは一瞬でかき消され、
こんな所で何をしているのか、
もしかして誰かを待っているのか、

海星の私生活を覗き見している気分になって興奮していた。



車を路肩に寄せさせて、じっくりと海星を観察した。



相変わらず女共に遠巻きに囲まれているが、いつも通りの人を寄せ付けない不機嫌さでミツルは安心する。



しばらくその不機嫌な顔と、一般人と一線を画す海星のオーラを楽しんでいると、海星が何かに気づき一直線にその先へと足を進めた。



ハッとしてミツルは見逃さないように急いで海星を目で追った。


その先に居たのは緩く髪を結んだ女だ。




距離があってハッキリとは見えないが、柔らかそうで男の庇護欲をくすぐりそうな女だと思った。


触れられるのを極端に嫌う海星が、その女の手首を掴んだと思うと何やら言葉を交わしてずるずると引きずっていったのだ。


ミツルにとってはこんな光景は見たことも無ければ、想像もしたことが無かった。


ましてや海星に連れて行かれて若干嫌そうにしているなんて信じられない。



呆然と見つめていると、海星が女にヘルメットを被せてやり、自分のバイクの後ろに乗せた。



"  … ウソだろ…  "




海星は自分のバイクに女を乗せたことがない。

少なくともミツルは見たことが無いし、本人も絶対に乗せないと以前言っていた。


ショウヘイでさえ、もしかしたら乗った事が無いかもしれない。


人とバイクに乗ること自体嫌だと言っていたはずだ。




"  あの女…  誰なんだよ… !! "





そして海星は女の手を自分の腰に回させて、あっという間に車の合間を縫って消えてしまった。




「っおい!!! あのバイク追えっ!! 」


「 っえ!? いや、無理っすよ!
混んでるしもうだいぶ先まで行ったんじゃないすか?」



「 っくそっ!! 使えねーなっ!! 」



運転席の後ろからガンッと前の後輩の座席を蹴り、舌打ちをした。



だが、気分は悪くなかった。


久しぶりに味わう気分だ。




「  暇潰し…   みーつけた   」



もう既に見えなくなった海星の姿を、
渋滞する車の隙間にいつまでも追いかけた。