「いっ、いっいらっ! いらっ!  いらっしゃい…ませ…!」


カウンターに半分以上身をのけぞらせたまま、
一切動揺を隠せない佳乃は、傍目から見たら完全に挙動不審の不審者である。


「   ふーん…  」


そんな不審者佳乃に何の反応も見せずに、マスモトエレナは、9.5坪の小さな店を見回している。


「     …変な飾り… 」


どの飾りを見て"変"と言ったのかは、
変なものがあり過ぎてよく分からないが、
その"変な飾り" よりも、今一番おかしいのは
挙動不審過ぎる佳乃だ。



「…え…  え…?   あの…  えーと…
あー.… と…。何だっけ… 
あ、そう! 注文! ごっ! ご注文は! 何かありましますか? あれ? あれますか? え?」


もう動揺がにっちもさっちも行かない状態の佳乃を見て、大きなため息をついた。



「 …はぁ… 
…私の事知ってるんですよね?
お母さんから何か聞いてるんでしょ?」



なんだろう、最近の高校生は大人を威圧する技でも教えられているのだろうか…


「知ってるんです。
なんかお母さんの様子がおかしいから。
この前もこっそり下校時間に学校覗きに来たの知ってるし…。
今日だってお母さんが見に来てたので、途中まで帰るふりして、逆にお母さんの後つけて来ました。」


平然とした顔でそう言ってのけるエレナに、さっきまで圧倒されたていた佳乃も冷静さを取り戻して来た。


「そ…そう…。」


とりあえず姿勢をまっすぐに伸ばして、エレナにはカウンター席を勧めつつ、自分は中に戻った。


「 …コーヒー飲める?」


「何もいりません」


喫茶店でまず飲み物を飲まないなら、一体何をすればいいのか…


常に毅然とした態度で臨んでくるエレナに、たじろぐ佳乃。


「お茶しに来たわけじゃありません。
さっき私を見てあんなに動揺したってことは、やっぱり何か知ってますよね?!」

さすが母娘だ。
興奮の仕方がマスモトさんと似ている気がする。


「いや… 私は…ただのカフェの店主で…  
しかも仮だし…。」

「は?」


「あ、いやいやそれはこっちの話!」


ーーーもぉ〜〜、私が何したっていうのよ〜!


一切隙を見せないエレナに、何をどう言っていいのか分からない佳乃は、なんとも言葉を切り出すことが出来ない。


勝手に言っていい事ではないし、ここまで分かっているエレナに、全て知らないフリでしらばっくれるのもまた難しい。


「 えー…と…。
お母さんはうちのお客様で、最近たまに来てくれるんだけど、あなたの写真を見せてもらった事があるの。 
それが突然本物がドアから現れたもんだからビックリしちゃって!」


あくまでただのお客さんと言う事にするしかない。


「嘘ですよね?
お母さんは一人で喫茶店なんて行く人じゃありません。 スーパーの買い物でさえ一人で行きたがりません。 私のトレーニングの待ち時間でさえ一人でお茶も飲みに行かないし、常に誰かと一緒じゃないと、お店に入るのを嫌がる人です。」



ーーーえー…。そんなの初耳なんですけど〜…


「え…あ、そうなんだ〜… 。
でも最初はお友達と来て、なんだか私と話も合っちゃったりなんかして、一人で来られる様になったんじゃないかな?!」


ツライ…これはもうかなり苦しい。


「母に友達はいません。」


「いやいや…  
そ〜んなことはないんじゃないかなぁ〜…?」


内心冷や汗ダラダラな佳乃が必死で平静を装っては見たものの、全く誤魔化されてはくれないエレナに、もう白旗を上げたい気分だった。


なすすべも無く目の前のコーヒーカップをとりあえず拭き始めた所で、エレナがうつむき加減に口を開いた。


「 …もう…嫌なんです…。
自分以外の周りだけがザワザワしてて…
お母さんだって絶対何かあるはずなのに…。

誰も何も行ってくれない!!
私の事なのにっ!

みんなゆっくり離れていくの!」