"　ジリリリリリリー…　ジリリリリリリー…"


今どき黒電話の音を着信音にするとか…

狙ってます？

そんな事を言われたこともあったが、
この音は本当に、どんな時でも耳に付く

"気付かせる"

という面ではトップクラスに優れた音なのだ。


「…はい…」


薄目のまま枕元をまさぐって、音の発信源を探した。



『あ、　出た…
佳乃、あんた今日会社休み？』



声を聞いた途端、内臓がゾワっと持ち上がる感覚と共に一気に意識が覚醒した。


「お母さんっ！？」


滅多にかけてこない母から、こんなタイミングで電話があるなんて、母の野生的感覚と、佳乃の生まれ持った間の悪さがうまくドッキングするとこういう事が起こる。


「ちょちょちょちょちょっと！
どうしたの？！日本にいるの？！」


『そう、昨日帰ってきてさ。
いい石が見つかったんだよねー。
だからしばらくうちの工房に籠もりたいのよ。

で？佳乃はどう？最近は。』



「さいき…　ん…。　
や！なんか！珍しいね！
お母さんが用事もないのに連絡してくるなんてさ！」


そう、昔から母の子育ては完全に放任主義なのだ。

　　ーーいや、違う。

むしろ、家族が母を放任している家庭なのだ。


『そうだっけ？
　なんとなくあんた今なら繋がりそうな気がして。』


ーーー　　ドンピシャです。


昔からこうなのだ。

異常に野生的勘が働く人だ。


「へ…　へぇ〜」

『なーによ。　なんかあったの？
あんたさっきから変。　
もしかして！　リストラにでもなった？！』


やけに楽しそうに　"リストラ"　などと物騒なワードを投げかけてくる母だが、どんな事件も楽しむ質なのだ、仕方がない。


ここまで　"当たらずも遠からず"　なことを言われると、もうごまかしは効かないと降参した。


「リストラじゃないって。　
…無職にはなったけど…」


『あら!　ほんと？！　やっぱねー！　相変わらず私の勘ってあたるわ〜〜！　

そんな気がしたのよねーー！！』


ーーー　そんな気がしたって…


それから、昨日の出来事を簡単に説明したが、
たいして経緯については興味もなさそうだった。


『ふーん、　ま、人生色々あるわよ。

でさ！　
あんた、カフェやんない？！』