「っわかりますか?! そうなんです!
ちょっと色々あって…

あのっ! これ、見てもらえますか?!」

初めから話すつもりで来たのだろう。
ハンドバッグから何枚かの写真を取り出してカウンターに並べた。

「 っえ…   これって」

佳乃がカウンターの中から身を乗り出して見てみると、よく見ないと何だかわからないが、明らかに健全ではないとわかる全体的に暗い写真だった。

薄暗いクラブの様な場所でグラスを掲げている数人の人間と女の子。

同じ場所だろうか、薄暗いがしっかりタバコを指に挟んでる様子がわかる写真や、ウォッカの酒瓶を掲げている写真まである。

そのどれも、女の子以外は顔をモザイクで消されている。

無論、その女の子とは

"マスモト エレナ" だ。

「これが… 私のメールに送られてきたんです…っ
こんな…っ! 
これじゃあ… 決定的じゃないですかっ!!」

マスモトさんが小刻みに震えながら口元を手で押さえた。

佳乃はなんと言えばいいのかわからず、もう一度この、はっきりと顔が写った写真を見下ろした。


「  ちょっと、僕も見ていいですか?」

1つ向こうのカウンターの端からゴローさんがマスモトさんに訊ねた。

マスモトさんはハンカチで口元を抑えながら、ふるふると頷いた。

「 う〜ん、 これー… なんかおかしいよねぇ?」

ゴローさんが指で写真を引き寄せながら呟いた。

「え? どういう事ですか?」

佳乃がゴローさんの指先から顔に視線を移す。

「うん、 何となくねぇ、この首から上と下が不自然に見えるんだよねぇ。」

「えっ!! それは! 加工されてるって事ですかっ!? じゃあ! これはエレナじゃないかも知れないって事っ!?」

途端に顔をバッと上げ、マスモトさんはゴローさんとの椅子一つ分の距離を詰め寄った。

「いやいや、 僕も専門家じゃないからハッキリとは言えないけど…
あぁ、良かったら僕の友達にこう言うのの専門家がいるから、見てもらってあげましょうか?」

「 ほ…っ、ほんとですか…っ?! 
あっ…ありがとうございますっ!!」

ゴローさんの提案に、マスモトさん驚き感極まって胸を押さえて天井を見上げている。

驚いているのはマスモトさんだけではない。

佳乃も驚いている。

「ゴローさん、 なんだか凄いお友達がいるんですね…」

謎なお客さんが多い店ではあるが、詮索もしたことが無いので、一体全体どんなバックグラウンドをもつ方々なのか誰一人として知らないのだ。

「たまたまね〜。
あの、僕のアドレスに写真送ってもらえます?」

なんだか先週から怒涛の急展開が多くて、
すっかり心は置いてけぼりな佳乃は、ぼーっとやり取りを眺めていた。

手早くやり取りは完了した様で、ゴローさんとマスモトさんは既に子供の思春期に付いて語り合っている。

やっと話のわかる人に出会えたと思ったのか、水を得た魚の様に饒舌に会話は進んでいく。

一通り気は済んだのか、ご飯支度をしなきゃ、と言ってゴローさんに丁重にお礼をし、マスモトさんは帰っていった。