午後。

ランチの洗い物などが一段落着いた頃、
ゴローさんが来店した。

最近は来る時間帯が不規則だ。

「ゴローさん、いらっしゃいませ」

いつもの席で珈琲を口に運ぶ頃には、ボックス席に居た、来店2回目の客がお会計を告げた。

「結構リピートのお客さん増えたんじゃない?」

「そうですね。  メニューももっと増やそうと思ってるんですけど、納得するまでに時間が掛かっちゃって…。」

「ゆっくりでいいよ。
ソウなんてブレンド一本しかない期間があったと思ったら、何だかよくわからないトロピカルなメニューをやたら出してきたり…
かと思ったら波が引くみたいにまたブレンド一本に戻ったりするんだよ…」

懐かしむ様に創太郎の事を語るゴローさんは、何だか手の掛かる息子を語る父親の様な顔をしている。

「そうちゃんらしい…」

「そうだねぇ。 
インドカレーにハマってる時期もあったなぁ。 あれはちょっとキツかったなぁ。
もう、店の中がすんごい匂いになっちゃってぇ」

「あ! そうだ、ランチの新メニューがあるんです! 夏野菜のキーマカレー!」

「お、いいね! もらおうかな。」

ゴローさんとの会話は落ち着く。

なんだか家族や親戚の様な気持ちになるのだ。

"カランカラ〜ン"

ゴローさんから、定番メニューにしてもいいんじゃない? と、お墨付きをもらった所でドアベルが鳴った。

「いらっしゃいませ、  …あ。」

「 どうも… こんにちわ。 
先日は大変失礼致しました…」

先週、高校生の娘の非行疑惑で取り乱していた、 "マスモト"  さんだ。

「いえ、 あ、お好きな席にどうぞ!」

マスモトさんは、カウンターのゴローさんから椅子1つ空けた所に座った。

「ブレンドおねがいします。」

マスモトさんは前来た時よりずっと元気が無く、来たときから椅子に腰掛けてもずっと背中は丸まったままだ。

「 お待たせしました、 ブレンドです。」

少しでも気分が明るくなればと、オレンジ色のコーヒーカップを選んだ。

佳乃一人になってからは、ソーサーに小さなクッキーも添えるようにしている。

「 …ありがとう…ございます…」

「  …あの… 大丈夫ですか…?」

声を掛けなければどう仕様もないくらいの暗いオーラを醸し出している為、少し警戒しながも佳乃は訊ねる他無かった。