「あの時は、またあの子のお人好しが炸裂したと思ったよ! 

だってさ、出してる本が"シニアから始める草野球"とか"ぶらり縁側探訪"って!!」


「でも! 新しい風を入れたいって言われたし。
それに社長あの時すごく切羽詰まってたみたいだし… 
結果的に売れた本も出来たしね?!」


佳乃の入社後、若者文化を研究すると言い出した社長が選んできたネタが、当時すでに流行していた携帯投稿小説だった。


その中で人気のあった作品にアポを取りまくって、やっと一作品契約できたのだ。

素人だって、出版社の情報くらいしっかり調べる。

出している本が "草野球"と"縁側"だと知れば敬遠するのも当然だろう。


「それがちょっと売れたからって調子に乗るからこんな事になるのよ。自業自得っていうの。佳乃だってわかってるでしょ?」

「そうだけど…」



出版までこぎつけた携帯小説は、もともとサイトで人気があった為、ある程度売れた。

それはもう今までのこの会社の発行部数を考えたら、従業員も社長もオフィスまでひっくり返るような数字だった。


一気に活気付き、増刷もかけまくった。


ノリに乗った社長はその作家に続編の依頼を出したり、他の作家に出版のお願いに行ったり、私達社員の静止も聞かず、それはもう精力的に動いた。


そう、動きすぎたのだ。


おだてられまくった作家は、次作で大コケ、同じ路線で新規開拓しようと声をかけ、出版まで行った作品は全くと言っていいほど売れないものがほとんどだった。


そんな所に、当時ノリノリで増刷しまくったあの最初に売れた携帯小説の書籍が、大量返品の憂き目にあったのだ。


あっという間に狭小オフィスはダンボール置き場と化し、置ききれないダンボールは社長の自宅や、社員の自宅まで使って保管しなければいけなくなった。


かく言う佳乃の家も例外ではない。



「ま、 そんな気はしてたわ  」




そうつぶやいて、優希は底に残ったレモンサワーをぐいっと飲み干した。


「そうなの?! なんで?いつから?!」



佳乃がタレ目がちな目を大きく見開いて、前のめり気味に驚く。

「いつって… 
そんなの3年前あんたのとこのビルの前で、あの社長見かけたときからでしょ。」


「えぇ?!それって、、入社してすぐじゃん!」


斜め上どころか、真後ろからクリティカルヒットを打ち込んでくる親友には、こうやって定期的に驚かされる。


「いや〜〜、あーゆうザッツ不幸!みたいなオーラの人に弱いからね〜〜、あんたは昔から。


ーーーね。 お人好しのよしのちゃん 」