「なかなか筋がいいじゃないのよ」


なんとか一通り器具の準備から手入れ、後片付けまで出来るようになった頃には、既にお昼をまわっていた。



「あ〜 全然そうちゃんが淹れたみたいな味にならないな〜」



何度も挑戦してるのに、なかなか昨日の感動の味にはならないのがもどかしい。



「それだけ奥が深いって事よ、珈琲の世界は。
でも初めてにしては感が良いし、なによりお前はあれだな!真面目だからな!

とにかくがんばれ!!」



バシバシ肩を叩かれて痛いし、声は大きいし、
ずっと前かがみで珈琲とにらめっこしていたので、首筋から腰にかけても痛い。


なかなかに体力勝負な仕事だ。


「まぁ飯でも食って休憩したらまた修行再開だ」



自分で淹れた珈琲のテイスティングをし過ぎて、胃がもたれてしまったのか食欲がわかない。


むしろホットミルクでも飲んで胃を休めたい。



「もう少し後でいいや。
そうちゃんだけどうぞ?」



「そっか? んじゃ、遠慮なくー」



フンフンと鼻歌を歌いながら作業台の下の冷蔵庫を開け、なにやら物色し始めた。




「そう言えば今日はお店お休みなの?」



にんにくや唐辛子がまな板に並べられていくのをぼーっと眺めながら、素朴な疑問を口にした。


「うん、午後から適当に。」



ーーー 適当…



「客来たら開けようと思ってたけど、来なかったし。
だから、午後からってことで!」



創太郎が作業台のコーナーの端に設置された小さな二口ガスコンロに、小さめのパスタ鍋を置いて火をつける。



一人前茹でるのにちょうど良さそうだ。


「じゃ、閉店は何時?」

「う〜ん、キリのいいところで」



ーーー なんだろう…すごくそうちゃんっぽい



「…自由だね…」

「まぁな! 
でも俺がいない間は佳乃の好きなようにしていいぞ! 
あ、ただ常連もいるから、その人達が来る時間帯は開けとけよ」



茹でたパスタを炒める音が妙に食欲をそそる。

「まっ! その内色々わかるさっ!」


軽やかな動きでパスタが皿に盛られた。


ペペロンチーノだ。



「 おいしそ 」

「お前いらないっつったからないぞっ!」



大人気なく皿を脇に隠して、唾を飛ばしながら大げさに言った。