ーーー 汗ふきシート持ち歩いてて良かった…



汗でじんわりと不快だった白のシンプルな半袖シャツも冷房ですっかり乾き、トイレで制汗エチケットを一通り済ませ、カウンターの前に戻った。



ーー今日はあんまりお客さんに近づきすぎないようにしよう…



 「お待たせ。 
なにから覚えればいいかな?」



「まぁ、まずは珈琲だなぁ。
カフェだからね〜。」



口笛でも吹き出しそうな軽快な動きで色々な器具を並べていく。


佳乃も中に入って創太郎の横に並ぶ。


何だか普段見ることの無い舞台裏に入ったみたいで少しワクワクした。



カパッと筒状の缶の蓋が開けられると、その場に甘くてビターな珈琲の香りがふわっと漂う。

「わ! いい香り」

「これで量って… ミルに入れてー 」

「ちょっと待って! メモメモ…」

サッとカウンターに置いたかばんの中から、用意していたメモ帳を取り出しペンを構える。

「真面目だねぇ〜」

「もうっ、いいからもう一回!」


細かく一人分の量や、豆の挽き方、ネルドリップの使い方や淹れ方のコツなど、目で見て耳で音を聞いて、紙に書いて必死に覚えようと集中した。


何だかんだいいながらも、いざ仕事を与えられると、真剣に取り組まないと気がすまない性格なのだ。