なにやら丸っこいガラス容器と、布袋がついた茶こしの様なものを取り出し、ミルでガリガリ粉砕したコーヒー豆を布袋の部分に入れている。


「これはネルドリップって言って、布で落とすコーヒーだ。」



「ふーん。紙と味が違うの?」


「全然違うぞ? 紙も美味いが、俺はネルドリップのコーヒーが一番好きなんだよねぇ。」


"自由気ままでいい加減でお調子者で、私をからかって心の底から大笑いしてる要警戒対象の叔父"くらにしか見ていなかったが、
真剣な目でコーヒーを入れている様子は、佳乃にとって初めて見る新鮮で意外すぎる一面だった。



ーーー この画だけ切り取ったら、おしゃれな雑誌のモデルみたいなのに…。 
しゃべらなきゃ。

残念だ…  



客席から真正面のカウンター内側の壁にズラリと並ぶ、様々なデザインのコーヒーカップの中から創太郎が一つ選んで、私の前にコトリと置いた。


「ほい。佳乃ちゃんウエルカムスペシャルドリップ」


ーーー なんだろう… 
飲む気が失せていく気がする


「い… いただきます…」


警戒レベルが50くらい上がったが、
とりあえずコーヒーに罪はないので、ありがたく頂くことにする。


「え…?  美味しい!」



少し含んだだけで、口の中にコーヒーの香りがぶわーっと広がって、華やかで、爽やかで、舌と鼻に抜ける風味がなんとも言えず驚いた。


「だろぉう?うまいんだよ〜!
俺が淹れる珈琲は」


「うん!すっごくおいしい!びっくりした!こんなの初めて!!」



「おっし!佳乃の初めて頂きました〜」


ガッツポーズでふざけたことを言ってくる叔父にいつもなら引いてる所だが、今は初めて味わったこの感動の方が勝っていた。


「ほんとに美味しいんだもん、びっくりした。
何か特別なコーヒーなの?」


創太郎がカウンターに両手をついて前のめりに得意げな顔を見せる。


「いんや、 
まぁ、強いて言うならー、、、ハート?」



「全然意味わかんない」


「こりゃ真面目な話、平たく言うとハートで間違いないんだがな。

もっと厳密に言うと、豆を栽培してる農家のハート、農家と取引してる業者のハート、焙煎してる豆屋のハート、そして淹れてる俺のハートだ 」


珈琲の美味しさと相まって、ちょっと心打たれてしまった佳乃の警戒レベルがシュルシュルと下がっていく。