地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達


あれよあれよという間に行き先を告げられて走り出したタクシーの中で、ようやく優希との約束をすっぽかす事になると言う事に気が付いた。


焦ってスマホの画面のロックを解除すると、すでに優希からラインが2件入っていた。



《 ごめん! 
在庫トラブル起きて遅くなりそう!
時間の目処がたたないから、今日はキャンセルで(T_T) 

埋め合わせはするゾ》





《そう言えば、佳乃のオジサンに久々会った!
相変わらず声と動きがデカかった。

佳乃と連絡つかないみたいだったから、待ち合わせのカフェ教えといた(^_^)v

よくわかんないけど、多分ファイト!!

困ったら電話して! 》




今まさに困ってるのだが、電話をすれば何とかしてくれるのだろうか…

タクシーの窓の縁をぼーっと見つめながら想像してみたが、何となく無理そうだ。


「ちょっと駅から距離あるけど、まぁ、徒歩圏内だし、ガチャガチャしてない落ち着いた所だ! 
もうすぐ着くからな!」


狭い車内なのに声の大きさは屋外と同じで、反射的に顔をしかめる。



駅に差し掛かり、洒落た店構えのスーパーや、整備された歩道に立ち並ぶ中規模のビル街を過ぎ、小さな商店街の入り口と何かの会社の看板を何軒か通り過ぎる。



それでもまだ車は走ると、だんだん道は細くなり昭和を感じさせる喫茶店やカラオケスナック、何やらいかがわしそうな古い雑居ビルや、恐ろしく入り辛い、 

"いらっしゃいませ" 

と書かれた暖簾の居酒屋などをゆっくりと過ぎた。


その先を少し行った3階建てくらいの古いビルの前で、創太郎は車を止めた。





「え… ここっ?」