白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 いくらロゼリエッタでも、兄の婚約者のサフィアのことを想えばそんなわがままは言えない。二人で、と招待されたのだから二人で行きたいのは当たり前だ。そこに友好的な関係を築いているとは言え婚約者の妹がくっついて来ては、がっかりしてしまうだろう。


 アイリは鏡越しにロゼリエッタと優しく目を合わせた。

「私が地位のある殿方だったなら、今すぐにでもお嬢様に求婚したいくらいです。もっとも――」

 そこでアイリは一度言葉を切った。ちらりと時計を見やり、時間を確認する。アイリの仕草にロゼリエッタも、そろそろ彼が来る時間が近いのだと察した。

 会えるのは二週間振りだろうか。

 彼はそれこそ、相変わらず女性たちの視線を集めるほどに素敵なのだろう。

 でも嬉しいのに、嬉しくない。

「お嬢様の婚約者のクロード様には、とても太刀打ち出来ませんけれど」

 アイリは楽しげに声を潜め、ドアを開けた。まるで紳士のような気取ったポーズを取り、ロゼリエッタを部屋の外へ促す。

「さあ参りましょう、お嬢様。王子様がお迎えにいらっしゃる時間です」

 ロゼリエッタは覚悟を決め、アイリの後をついて部屋を出る。見送りのメイドたちが左右に並ぶ廊下を少し歩くと吹き抜けから階下が見えた。


 執事がちょうど、一人の青年を出迎えたところのようだ。

 遠目にも明るい金髪は陽の光にも似て眩しい。太陽そのものを見てしまった時のようにロゼリエッタは目を細め、さりげなく視線を背けた。