レミリアが高らかに告げるとサロンは水を打ったように静まり返った。さしものスタンレー公爵も、これ以上の追及を続けては反逆罪に問われかねない。レミリアの前に片膝をついて頭を垂れる。

「このような華々しい場を乱すような振る舞い、大変失礼致しました。されどこの国を思ってのこと故、どうぞご容赦いただきますよう存じ上げます」

「その気持ちは理解すると共にとても嬉しく思っています。だからもう顔を上げて」

「恐れ入ります」

 和解を経てスタンレー公爵が再び立ち上がると、張り詰めていたサロンの空気も少しずつ緩みはじめた。

 けれど、心から夜会を楽しめる者はもういないだろう。投じられた小石が水面を震わせて波紋を描くのと同じことだ。自国の王女による保証はあれど、招待客は誰一人として仮面の騎士の素性を知らない。――ロゼリエッタと、確信を持ったであろうスタンレー公爵以外には。

「大丈夫かい、ロゼ。疲れているようだしもう帰ろうか」

「はい。ダヴィッド様」

 ほんの一瞬だけ仮面越しに騎士と目が合ったような気がしたけれど、ロゼリエッタはダヴィッドの手を取って足早にサロンを後にした。