白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 ますますざわめきが大きくなった。

 隣国の情勢は貴族なら誰しもが知るところだ。マーガスはこれまで正統な継承権を持つが故に、それを脅かされていることに同情的な目を向けられていた。この国の王女であるレミリアの婚約者なのだからなおさらだ。


 けれど愛国心を盾に正義の刃を仮面の騎士へと向けるスタンレー公爵を、誰も咎めることはできない。思惑はどうであれ、騎士の素性を知りたいと皆が思っていること自体もまた事実だからだ。

「マーガスの護衛である彼が、我が国に災厄をもたらすと?」

「そうは申し上げておりません。とは言え、先日の夜会でも西門で不審な騒ぎがあったと聞き及んでおります。愛する祖国を憂いるのは貴族として当然のことでございましょう」

 怒りに声を震わせながらも、レミリアは仮面の騎士の名は明かさなかった。見え透いた安い挑発に乗らなかったのは、まだ若くとも王女の矜持と言ったところか。

 おそらくスタンレー公爵もそれを目的の一つにしていたに違いない。わずかに残念そうに眉をひそめた。

「ならば愛する民の為に私が今ここで、この名にかけて宣言致しましょう。彼は主たるマーガス王太子殿下に仕える身であり、決して我が国に災厄をもたらすような悪しき者ではありません。それでもなお彼を疑うのであれば、私を疑うに等しいことです」