白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

「そのような怖い顔で見ないで欲しい。私はあくまで、この国に害を成す存在の可能性を常に考えているだけだよ。殿下とクロード君が清廉潔白であるなら、それはとても喜ばしいことだ」

「――はい。私の浅慮からご不快な思いを抱かせてしまったにも拘わらずご寛大な措置をいただき、痛み入ります」

「いや。元はと言えば私が言い出した話だ。気にしなくて結構」

 ロゼリエッタがスタンレー公爵から情報を引き出すなど無理な話だ。駆け引きの相手とするには踏んで来た場数が違いすぎる。そこは比べるべくもない。目に見えた圧倒的な差だ。公爵の気まぐれで得られたところで、ロゼリエッタの身には余るものだろう。


 おとなしく引き下がったロゼリエッタを憐れんだのか。スタンレー公爵は静かに告げる。

「ただ、クロード君は自らに嫌疑の目を向けられていると知ったうえで、ロゼリエッタ嬢は巻き込むまいと婚約の解消を決意したかもしれないね」

「それでも、私はクロード様と共にありたかったです」

 強い願いが無意識のうちに口をついた。


 でも公爵の言うように、婚約を解消することがクロードから最後に与えられた優しくも残酷な仕打ちの理由なのだとしたら。

 そんな優しさはいらないと突っぱねることは簡単だ。

(だけど私はクロード様と共には戦えない。それどころかきっと――足枷になってしまう)

 ロゼリエッタは手にしたままの羽ペンの先を、そっとインク瓶に浸した。

 勇気を奮い立たせ、指定された場所に自分の名を記して行く。


 婚約の解消を受け入れたわけじゃない。

 ただ、今はこうすることがクロードの身を護ることだと信じ、その証に自分の名を捧げるのだ。