白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 たった今、スタンレー公爵は不審な人物が暴れていたと言っていた。

 この国は少なくとも、ロゼリエッタが知る限りではとても平和だ。

 中には今の体制に不満を持つ国民もいるのかもしれない。けれどそれを示す行動の場としてあの日の夜会を選ぶことは、何だか理に適っていない気がした。

「君に追い打ちをかけるようで些か心苦しくはあるのだが」

 親指と人差し指を添えて片眼鏡の位置を直しながら、スタンレー公爵は苦しげな表情を浮かべる。

 婚約の解消に行方知れずと続いて、これ以上まだ何かつらい事実があるのか。逆に笑ってしまいそうでロゼリエッタは唇を噛みしめた。覚悟と共にそっと息を吐き「何でしょうか」と先を促す。


 ロゼリエッタの表情を窺いスタンレー公爵は机の上で、ともすれば神経質そうにも見える指を組んだ。

「クロード君には、かねてよりスパイ疑惑がかけられている」

「スパイ?」

「正確に言うならば、彼の主であるレミリア殿下も同様だがね」

 スパイ疑惑。


 衝撃に揺れる心を懸命に抑えながら、ロゼリエッタはもう一度スタンレー公爵の言葉を声には出さずに反芻した。


 最近、告げられた言葉をその場で理解できないことが増えた気がする。

 でも誰が予想できるだろうか。

 婚約者からの愛こそなくとも平穏ではあった日々に、どれも馴染みがないことばかりだ。