何かを乞うような熱を帯びた声色でクロードが名を呼ぶ。


 聞き分けのないロゼリエッタに困っているのかもしれない。

 やっぱり、表面だけを取り繕って笑っていたのは正解だったのだ。

 子供なロゼリエッタはクロードに愛してはもらえない。大人であろうとしてようやく、女性としてではなく妹として見てもらえる程度に過ぎなかった。


 ロゼリエッタの瞳にさらなる涙が潤む。

 二人にとって初めての抱擁が別れ話を切り出されているその時だなんて、どんな皮肉なのだろうか。

 それでもクロードの温もりに包まれていることに喜びを見出してしまう自分は、とても浅ましい。でもずっと、こうして欲しいと心の奥で願い続けていた。

「クロード様、どうか」

 どこにも行かないで下さい。


 心からの願いは口に出すことは叶わなかった。

 いちばん伝えたい想いなのに、伝えたら困らせてしまう。

 そのせいでいちばん伝えたいことだからこそ喉の奥に張りついてしまっている。

「――本当に、すまない」

 きつく抱きしめられていることで動かせないでいた両腕を何とかクロードの背に回しかけたところで、ゆっくりと引き離された。

 ロゼリエッタは顔を上げ、涙に濡れた視線を向ける。けれどクロードは、もう目を合わせてはくれなかった。