白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

「温かい紅茶が飲みたいわ。淹れてもらってもいい?」

「もちろんです。すぐに準備をして参りますね」

「ミルクとお砂糖は多めにしてね」

「畏まりました」

 静まり返った部屋に一人きりになり、ロゼリエッタはゆっくりと身を起こした。ベッド脇のスツールに手を伸ばし、緑色の宝石箱を引き寄せる。中に一枚だけ収められたカードを取り出した。


 掌の上のカードを、そっと指先でなぞった。

 クロードと初めて会った日に彼と兄が遊んでいたものと同じカードだ。後になって、ルールを少し覚えたと報告したら真新しいカードを贈ってくれた。いつか二人で遊ぶ日を夢見ていたけれど、果たせないままに関係が終わってしまった。


 とりわけ白詰草と四葉の描かれたカードがお気に入りで、そのカードだけを箱から取り出しては何度も眺めた。こうして今日久し振りに手に取ったのは、クロードを忘れるなんてできない未練がましさからだろう。

「クロード様」

 カードの上に一滴の涙が落ちる。透明な雫は防水加工の施された表面を伝い、まるでカード自体も泣いているようだった。


『隣国で王位継承問題を巡る武力抗争が発生して、クロードが巻き込まれたそうだ』


 兄の言葉が何度も頭の中で繰り返された。

 ロゼリエッタを一人の女性として愛してくれていた婚約者は、最初からどこにもいなかった。その代わり白詰草と称し、妹のように可愛がってくれる婚約者はいた。だけどその婚約者も、もういない。


 涙で濡れたカードの表面を最後に一撫でして、宝石箱にしまう。

 クロードへの恋心も思い出も、カードと一緒にしまいこみ、鍵をかけてしまおうか。


 でもそんなことはできはしない。自分がいちばんよく、分かっていた。