白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

「何もないと良いのだけれど……」

 一時まで待って、それでも姿を見せないのならこちらから使いを出した方がいいのかもしれない。

 そう決めたものの落ち着かない気持ちで何度も時計を見上げては時刻を確認してしまう。そうしてあと十分ほどで一時になろうかというところで、待ち人は来た。

「お兄様、今日はずいぶんと遅く――」

「ロゼ、気を確かに、聞いて欲しい」

「どうなさったの?」

 椅子から立ち上がろうとしたロゼリエッタを制し、レオニールは肩で大きく息をつく。あきらかに普段とは違う兄の様子に、ロゼリエッタは悪い予感を覚えた。不安がみるみるうちに膨れ上がって胸を締めつけて行く。

 少し前にも、こんな表情を浮かべた人物をロゼリエッタは見ている。そうして、その人物はとても辛い事実をロゼリエッタに話したのだ。


 ――婚約解消を切り出す前のクロードと今の兄はよく似ている。


 心臓が早鐘を打ちはじめた。

 どうか杞憂であって欲しい。そう願うロゼリエッタの心を知ってか知らずか、真っすぐに見つめる兄と目が合った。

「隣国で王位継承問題を巡る武力抗争が発生して、クロードが巻き込まれたそうだ」

 青ざめた顔の兄は、その後の消息は一切掴めてはいないと続ける。


 それはまるで、遠い世界の出来事の話のようだった。