「本当に、申し訳ありません」
目元を両手で覆い、わずかな沈黙の後で顔を上げる。たった一言に様々な想いが込められていることを感じ取り、ロゼリエッタは再び小さく首を振った。
周りの人々に心配をかけさせてしまうような行動を取りながらも、優しい人々が与えてくれる温かな愛情を拒んでいるのはロゼリエッタだ。アイリは貴族のお嬢様のわがままに振り回されていると呆れたっていい。
「私の身の回りの世話をするお仕事をしているのだから、新しいハンカチはいつでもいいわ。たくさん持っているし」
「はい。恐れ入ります」
アイリは丁寧に頭を下げ、ようやく笑みを浮かべた。ロゼリエッタも笑顔で頷き返し、壁にかけられた時計に目を向ける。
「お兄様、いくらなんでも遅すぎないかしら?」
時計の長針は六と七の文字盤の間にあった。約束の時間を十分どころか、三十分以上過ぎている。にも拘わらずやって来る気配もないレオニールに、さすがのロゼリエッタも訝しげに首を傾げた。
「レオニール様にしては珍しいですね」
先程まで泣いていたとは微塵も感じさせない、いつもと変わらぬ様子でアイリも同意を示す。
どうしても都合がつかないならつかないで、そんな日は来れないと連絡がある。それでも十二時より先のことだし、今日も十分ほど遅れると言伝をしていた。ましてや何も言わず約束の時間を三十分も遅れるなんて、これまで一度もなかったことだ。
おそらく、何らかのトラブルはあったのだろう。でもそれが仕事に関することなのか、あるいはレオニール個人に関することなのかは分からない。ロゼリエッタは、レオニール本人か彼の言伝を受けた誰かがやって来るのを待つしかなかった。
目元を両手で覆い、わずかな沈黙の後で顔を上げる。たった一言に様々な想いが込められていることを感じ取り、ロゼリエッタは再び小さく首を振った。
周りの人々に心配をかけさせてしまうような行動を取りながらも、優しい人々が与えてくれる温かな愛情を拒んでいるのはロゼリエッタだ。アイリは貴族のお嬢様のわがままに振り回されていると呆れたっていい。
「私の身の回りの世話をするお仕事をしているのだから、新しいハンカチはいつでもいいわ。たくさん持っているし」
「はい。恐れ入ります」
アイリは丁寧に頭を下げ、ようやく笑みを浮かべた。ロゼリエッタも笑顔で頷き返し、壁にかけられた時計に目を向ける。
「お兄様、いくらなんでも遅すぎないかしら?」
時計の長針は六と七の文字盤の間にあった。約束の時間を十分どころか、三十分以上過ぎている。にも拘わらずやって来る気配もないレオニールに、さすがのロゼリエッタも訝しげに首を傾げた。
「レオニール様にしては珍しいですね」
先程まで泣いていたとは微塵も感じさせない、いつもと変わらぬ様子でアイリも同意を示す。
どうしても都合がつかないならつかないで、そんな日は来れないと連絡がある。それでも十二時より先のことだし、今日も十分ほど遅れると言伝をしていた。ましてや何も言わず約束の時間を三十分も遅れるなんて、これまで一度もなかったことだ。
おそらく、何らかのトラブルはあったのだろう。でもそれが仕事に関することなのか、あるいはレオニール個人に関することなのかは分からない。ロゼリエッタは、レオニール本人か彼の言伝を受けた誰かがやって来るのを待つしかなかった。
