白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 それでも泣かずにいると、アイリはさらに悲しげに顔を歪める。

「私がいるから泣けないと仰るのであれば、退室致します。ですから」

「ううん。いいの、アイリ。ありがとう」

「お嬢様……」

 ロゼリエッタは笑みを浮かべ、やんわりと首を振った。なのにアイリの目からはとうとう大粒の涙がこぼれ落ちる。泣かないで、とハンカチを差し出すとアイリは遠慮がちに受け取って涙を拭った。

「申し訳ありま、せ……」

「大丈夫よ、気にしないで。私の為に泣いてくれてありがとう」

 両親も兄もアイリも、周りの人々はみんなロゼリエッタを心配してくれている。深い愛情も惜しみなく注いでくれていた。その事実はとても嬉しい。自分は幸せ者だと思う。


 けれどそれでも、ロゼリエッタはクロードからの愛情がいちばん欲しかった。

 どんなに求めたところで手に入らないものを、手に入らないものだからこそ愚かなほどに強く望んでしまう。

 そして守ってくれる手から一人飛び出して茨の中を無謀にかき分け、傷ついて泣くのだ。


 報われることの決してない恋を諦め、忘れた方がいいのかもしれない。

 でもそうしようとする度に蘇らせた幸せな思い出に心が縋りつく。そんなことを何度も繰り返していて何を諦め、忘れることなどできるのだろうか。


 だからもうせめて、泣いていると誰かに悟られるようなそぶりは見せない。そう決めたのだ。

「ご心配を、おかけ致しました。お借りしたハンカチは、必ずや新しいものをご用意してお返し致しますから」

 喉に声を詰まらせながらもそう言って、アイリはハンカチを大切そうにエプロンのポケットにしまった。