白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

「お一人で先に召し上がりますか?」

「どうせ一人じゃ食欲も沸かないし待ってるわ」

「そう仰ると分かってはいたのですけどね」

 昼食まで微妙な空き時間が出来てしまい、ロゼリエッタは立ち上がった。日当たりの良い窓辺へ向かい、外を眺める。


 窓の正面から遥か遠くには尖塔が高くそびえ立つ王城が見えた。

 少し前までは、あの王城内にクロードがいると思うと胸が高鳴った。そうして、ロゼリエッタのことなど思い出すこともなくレミリアと共にいるのだと思うと胸が軋んだ。その度にクロードは仕事中だから当たり前のことだと言い聞かせて、醜い嫉妬が膨れ上がらないようにして来た。


 でも今は王城にも、この国のどこにもいない。

 ロゼリエッタとの婚約を解消してまで隣国へと旅立ってしまった。

「お嬢様」

 ふいに背後から声をかけられる。振り返ると、テーブルの脇に立つアイリが何故か泣きそうな顔で告げた。

「今は私しかおりません。ましてや、悲しい時に泣いたからと言って誰がお嬢様を責められるでしょうか」

 思いもよらない言葉にたちまち瞳に涙が潤んで行く。悲しい時は泣いてもいい。アイリはそう言ってくれていた。


 そういえば、少し前にも同じようなことを誰かに言われた覚えがある。あれは何のことだったかと記憶を手繰り、思い出した。

 クロードと最後に行った夜会で、一人でサロンに佇むロゼリエッタにダヴィッドが言ったのだ。せっかく一緒に来たのに寂しいね、と。


 両親にとりわけ厳しく、貴族の令嬢たるもの感情を表に出してはいけないと躾けられたわけではない。

 むしろ両親も兄も、ロゼリエッタには甘い方だった。ロゼリエッタ自身が、クロードに釣り合いたくてそうしていただけだ。実際はそんなことをした程度では釣り合いなど全く取れてはおらず、婚約を解消されてしまったけれど。