怖がっているのが伝わってしまうのか、彼らと目が合いはしても誰一人としてロゼリエッタに関心を示さなかった。もっとも関心を持って欲しいわけでもないし、ロゼリエッタも特に何をするわけでもなかったからお互い様だ。

 ロゼリエッタとしても異性は家族と、屋敷で働いてくれている人々以外はどこか怖かった。だから、また兄の友人が一人増えたという認識だけを持って部屋に戻ろうとした。

「君がロゼリエッタ嬢なんだね。僕はクロード・グランハイム。君の話はよくレオニールから聞いているよ」

 初めて声をかけられ、ロゼリエッタは思わず助けを求めてレオニールを見つめた。戸惑う妹の様子を楽しんでいるのか。レオニールの顔には笑みが浮かんでいる。

「ロゼもちゃんと挨拶を返してあげないと、立派な淑女にはなれないよ?」

 そこでロゼリエッタはクロードが先に名乗ってくれたことにようやく思い至り、慌てて淑女の挨拶をした。

 やり方を覚えはしたものの、実際にはまだほとんどしたことのない挨拶は綺麗に出来ているのかよく分からない。けれどレオニールもクロードも顔をしかめたりはしなかったから、とりあえずの及第点はもらえたようだ。