「ご忠告ありがとうございます。今度から僕が傍にいられない時は、信頼のおける確かな人物にロゼをお預かりしていただくことにします」

「それがよろしいかと」

 クロードとダヴィッドは年齢も家の爵位も違えど面識があるし、特に仲が悪いということもなかったはずだ。なのに何故か、お互いに笑顔でやりとりをしているのにその口ぶりにはどこか刺々しい雰囲気がある。

「ロゼ、君は」

「私はもう帰ろうと思います」

 クロードの言いたいことを察してロゼリエッタは先手を打った。

 一人でいても楽しくない。だけど二人でいても、彼の心は別の女性で占められているのだと思うと苦しい。

 ダヴィッドが一緒にいてくれたのは心強かったけれど、この場にいなければいけない必要性は感じられなかった。


 多分、ダヴィッドなら助けてくれる。そんな打算を持って、彼の背中に隠れるよう一歩だけ後退(あとずさ)った。

 意図に気がついてくれたのか、ダヴィッドが一歩前に進んで言葉を継いだ。

「それなら僕が家まで送って行きますよ。パートナーを連れて来ているわけでもないから、いつでも帰れますし」

 クロードはロゼリエッタとダヴィッドを交互に見やる。何かを思案するようなそぶりを見せ、すぐに軽く首を振った。

僕の婚約者(・・・・・)を、よろしくお願いします。おやすみ、ロゼ」
「おやすみなさい、クロード様。お気をつけて」

 西門であったという事件が思いの外良くない状況なのだろうか。

 ダヴィッドに頭を下げたクロードの表情は、ずいぶんと険しいそれになっていた。




 ロゼリエッタがクロードから別れを告げられたのは、この日から三日後の話だ。