「――王女殿下も、ご同行されるのですか」

 心が痛い。

 クロードは王女に仕える騎士だ。彼が隣国へ行くのであれば、王女も一緒なのだと十分に考えられた。

 つまりロゼリエッタとの婚約を解消してまで、王女の護衛を優先したということだ。


 胸が苦しい。

 天秤にかけるべきではない事柄同士を天秤にかけ、その結果、王女にさえ嫉妬してしまう自分の醜さに息が詰まりそうだった。

「いや。殿下は隣国に向かわれないよ」

 王女は一緒ではないことに安堵を覚える。だけど、クロードは主の命で危険な場所に行く事実は変わらない。

 ロゼリエッタはともすればしゃがみ込んでしまいたくなる気持ちを押し殺し、必死に顔を上げた。


 心が苦しい。

 好きな人が離れて行こうとしているのに、どうして泣きながら引き留めてはいけないのか。

「ではそのような場所に、どうして公爵家のご令息のクロード様が行かなければならないのですか」

「僕は王女殿下に仕える騎士だ。殿下がそう望まれるのなら従う」

「でしたら、私もクロード様の将来の伴侶としてご一緒に――」

 危険な場所であろうと共にありたい。それで命を落とすことになっても、クロードの傍にいられるなら怖くなかった。

 けれどクロードはあくまでも冷静に、ロゼリエッタの夢見がちな想いを断ち切る。

「君も連れて行けるような情勢じゃない。だからと言って、帰って来れない可能性もあるのに君を婚約者という形に縛りつけるわけにも行かない」