白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

「思い出した?」

 弾かれたように顔を上げれば、クロードはどこか楽しそうに笑う。こんな笑顔を見るのはずいぶん久し振りだ。最後に見たのはいつだっただろう。それを思い出そうとして、婚約してからは見た覚えがない気がしてやめる。


 だけど、約束した時のクロードはどこか様子がおかしかった。

 迎えに来て欲しいと言ったロゼリエッタの言葉が、原因だというのか。そんなそぶりなんて全くなかったのに。


 クロードの手が、ロゼリエッタの頬に触れた。

 その形を確かめるようにゆっくりと、壊してしまわないように優しく手をすべらせる。

(これは、夢?)

 だとしたら身動(みじろ)ぎしたら途端に目が覚めてしまうかもしれない。

 ロゼリエッタはじっとしていた。

 おずおずと視線だけを動かしてクロードの顔を見つめる。綺麗な目の中に、自分だけが映っていた。

「本当は、おとなしくダヴィッド様に君を任せるつもりだった。もう二度と君に会えないつもりでマーガス殿下に手を貸していた。でも君が迎えに来て欲しいと言ってくれたから心が揺れた。君を諦められなくなった。君にそんなつもりがないことは分かっていたけれど――迎えに行ける日が来たらいいと思ったんだ」

「でも、その後に婚約の解消を切り出されました」

「――うん。他に巻き込まない方法が思いつかなかった。僕は自分の力を過信しすぎて、自分の置かれている状況を楽観視しすぎて、君を危険に晒そうとしていたから」

 クロードは困惑したように眉尻を下げ、柔らかな白い頬を撫でる手を止めた。

「ここに来る前に、ダヴィッド様のところに行ったんだ。膝をついて深く謝罪した。僕の自分勝手な都合に巻き込んでしまった以上、殴られることを覚悟してもいた。だけど、最初から分かっていたと言われたよ。ダヴィッド様に常に嫉妬に塗れた目を向ける僕が君のことを手放せるわけがないって」