ロゼリエッタはクロードを見た。


 彼がマーガス暗殺の犯人だと嘘の供述をしたのは、本当にロゼリエッタの為だったのだ。

 そんな優しさなんか、いらなかったのに。

「恐れながら、印璽の意匠には細やかな図を用いておりますが、複製することは決して不可能ではございません。何より私個人がマーガス王太子殿下に手紙をお出しできるような身にございませんので、何のお話か分かりかねます」

「確かにそなたの申し分に一理はある。だが先刻、そなたは"ロゼリエッタ嬢の手紙"を証拠として提出したばかりだ。そなたの言い分が通るなら、ロゼリエッタ嬢にも再考の余地があるということではあるまいか」

 ロゼリエッタは咄嗟に王へと嘆願した。

「どうか紙とペンをご用意してはいただけないでしょうか。皆様がご納得いただけるまで、私の筆跡の鑑定をお願い致します」

 しばし思案し、王は頷く。そして貴族たちにロゼリエッタとスタンレー公爵、二人分の筆記具を貸すように命じた。

「スタンレー公爵はこちらに」

 公爵の座る傍聴人用の席にはテーブルがない。長テーブルに座る貴族の一人が立ち上がると席を譲った。ロゼリエッタは席を移らず、筆記具を持って来た別の貴族からそのまま手渡される。

 スタンレー公爵は微動だにしなかった。筆跡の鑑定を拒否するという意思表示だろう。レミリアが不快そうに美しい顔をしかめた。