白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 ひどく冷淡な声が部屋の隅から発せられた。

 王女の証言すら覆さんとする言葉に、クロード以外の目線が誘われるように向けられる。

 声の主であるスタンレー公爵はこの程度の圧に何ら臆することなく、むしろ愉悦の色を浮かべて言葉を紡いだ。

「ロゼリエッタ・カルヴァネスはクロード・グランハイムと婚約者の関係にあった身にございます。裁定の攪乱目的ででたらめな証言を並べ、真相を煙に巻こうとしているのでしょう」

「そ、そのようなことは誓ってしておりません……!」

 予期せぬ反撃に、先程までの勢いはたちまち(しぼ)んでしまう。

 それでもロゼリエッタは懸命に声を振り絞った。


 あと少しなのだ。

 ロゼリエッタもクロードも、罪を負うようなことは何もしていない。

 堂々と胸を張っていたら良いのだ。

(クロード様は、どうして何も仰らないの)

 まさかこの期に及んでもなお、全ての罪を一人で受け入れるつもりなのか。


 祈るようにクロードを見つめる。

 クロードは何を思っているのだろう。

 凪いだ表情でスタンレー公爵を見ている。

 彼が何を思っているのかなんて、ロゼリエッタには分からなかった。

「そこまで明言するからには相応の裏づけがあると申すのだな」

「は。もちろんにございます。こちらで抑えている証拠を陛下に提出したく存じます。よろしいでしょうか」

「――うむ」