白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

「でも気をつけてね。人気のない方には決して行かずに、何かあったら恥ずかしいと我慢したりせずに大きな声で人を呼ぶのよ」

「はい。お心遣いありがとうございます」

 ささやかな、けれども醜い嫉妬心からの妨害にロゼリエッタの胸が痛んだ。こんなことをしたって、ロゼリエッタが席を外せば何の意味もない。それでもレミリアと視線を交わすクロードを見たくはなかった。


 ロゼリエッタは再びクロードに向き直る。婚約者を、その想い人と二人きりにさせてしまう事実に泣き出しそうになる心を叱咤し、声を振り絞った。

「クロード様、ちゃんと後で迎えに来て下さいませね」

 ほんの一瞬だけクロードの目が見開かれた。無理をして笑っていることに気がつかれてしまったのだろうか。ロゼリエッタは笑みを深め、三歳年下の無邪気な婚約者の仮面を被る。

 本当は、今にも張り裂けそうな胸の内に気がついて欲しい。でもそれが叶えられる願いだったなら、こんな想いは抱いてない。

「必ず迎えに行くよ。――約束する」

 この場から一刻も早く立ち去りたくて、ロゼリエッタは立ち上がると二人へ軽い会釈だけをして背を向けた。歩き出したロゼリエッタの耳に、レミリアの小さな声が届く。

「そんな顔をしないでクロード。もう少しの辛抱なのだから」