白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

 ロゼリエッタはその瞬間、仄暗い喜びを抱いてしまった。

 婚約の解消にクロードも心を痛めていた。

 彼の心にロゼリエッタの存在が少しでも傷をつけていたのなら、忘れられてしまうことはない。

 それだけで歓喜を覚える自分はとても醜いけれど、どこか誇らしくさえあった。

「ロゼ、あなたももう、誰がフランツ殿下に手を貸しているのか……察してはいるのでしょう?」

「それは、」

 今度はロゼリエッタが言葉に詰まった。


 確信などない。ただ条件が一致しているというだけだ。

 だけど、他に誰もいない。


 ならばいっそのこと、名を出して否定してもらえば良いのではないか。

「スタンレー公爵閣下……ですか」

「ええ。その通りよ」

 思案の末、否定されることがどれだけ安堵に繋がるか分からず、喉につっかえた名を口にすれば簡単に肯定された。


 思い返せば、婚約を解消する為の書類を持って来た時、公爵はレミリアとクロードにスパイ疑惑があると話していた。

 そんなはずはないと聞き流したけれど、あれは二人への不信感を煽るように捲かれた、ごく小さな種だったのではないのか。


 守ろうとするクロードの手を、ロゼリエッタに取らせない為に。

「グスタフ陛下の体調が安定せず、マーガス殿下が成人を迎えたことで追い込まれていたフランツ殿下は相応の力を持った協力者が欲しかったことは想像に難くないわ。でも、立場的に隣国の貴族に公に接触を図る機会は多くない。数少ないチャンスを狙っていたのでしょうね」

「スタンレー公爵が取引に応じると、確信もおありだったのでしょうか」

「おそらくはね。そして協力を得ることを引き換えに教えたはずよ。クロードが、自分の婚約者がアーネスト殿下と密かに通じて生まれた子だと」