グランハイム公爵家と釣り合う家柄。

 年齢はおそらく四十代前後。

 この二つの条件だけでも該当する人物は多くないだろう。


 そしてロゼリエッタの為を思ったアイリが協力を求められるほどの距離にいて、ロゼリエッタの為になるような強い影響を他人に与えることの出来る人物となればなおさらだ。


 現にロゼリエッタの中には、疑いを持ちながらも見知った人物の姿が浮かんで来ている。

 けれどまだ確信はない。他に誰も心当たりがなくとも、闇雲に疑いの目を向けたい相手でもなかった。

「結局のところ、皆がフランツ殿下を侮っていた。本当に武力に頼った行動を起こせるはずがないと。クロードがいなくてもマーガス殿下が次期国王になることには正統性があって、揺るがないことだから」

「フランツ殿下と協力関係を結んだ、我が国の貴族の甘言に乗ってしまったことが引き金なのでしょうか」

「それは……どうかしら」

 レミリアは静かに首を横に振った。

「フランツ殿下に野心が残っていたことは確かだもの。どちらかが一方的に利用していることはないような気がするわ。――でも」

「でも?」

 歯切れの悪くなったレミリアの言葉を引き出すよう問いかける。

 レミリアは溜め息を吐いた。初めて紅茶を飲み、ロゼリエッタはじっと待つ。

 紅茶はすっかり温くなってしまっていた。だけど今、喉を通すにはこれくらいがちょうどいい。

「これはあくまでも、私がそう思うだけの話だけれど」

 レミリアはそう前置きをしてロゼリエッタを見つめた。

「その"誰か"にとって本当はきっと、王位簒奪すらおまけのようなものなのよ。だって失敗を前提にした武力抗争が起きてクロードが巻き込まれたことも、マーガス殿下の命が狙われたことも……ロゼとの婚約を解消したことも、あなたに殿下暗殺の冤罪がかけられようとしていたのも……一連の流れで最も苦しんだのは、クロードなんだもの」